奄美大島


金井工芸さんを出た後は、車をゆっくりと走らせながら宿へと向かいました。
南の方までぐるっと島を回ろうかとも思ったのですが、今回はあまり予定を詰め込まずに、
のんびりと時間を贅沢に使って、あえて何もせず感じるままに過ごすのもいいなと思いそんな旅に。
目の前に広がる海を見ながら、何もせず考えずにいる時間は、それだけで十分だなと思えます。
日常から離れた景色や匂い、音。自分達の身体と心を解放させるには最高の環境でした。


何処に住んでいようとも、時間の概念は皆同じで岩手に住んでいようと東京に住んでいようと奄美大島に住んでいても
同じ時間が与えられていると思うのですが、不思議なもので時間は、その土地の空気や住んでいる方の生き方によって
大きく変わるのではないかと思いました。
自分達が生活する盛岡も、時間の流れはゆっくりで穏やかに感じるのですが、その良さとはまた違った時間の流れを感じて、
むしろ時間を忘れて何とも心地良い感覚を得る事が出来ました。
離島ですが、閉鎖的な雰囲気などは全くと言って程感じず、自分達が見たのは奄美のほんの一部かもしれませんが
接する方は皆、親切であたたかく、そして、ご飯がどのお店に入っても美味しくて量が多いのも印象的でした。
良心的な価格でお腹一杯食べさせたい。そんなおもてなしの心を感じる島料理は、盛岡にも通ずるものがあります。
その土地の食を楽しむのも、旅の醍醐味の一つ。大満足でした。


宿の目の前がプライベートビーチの様な状態なので、チェックインして直ぐに、泥藍染をした洋服を海水ですすぎました。
奄美大島の自然の恵みを浸み込ませて。
僕は1人、ヤドカリに興奮してしまい自分の気配を極力消してヤドカリ探しに夢中になっていました。
とても綺麗な澄んだ海の色。足裏を優しく擽るきめ細やかな砂浜。
スタッフの方が、浜を裸足で歩いたり寝そべるだけでも浄化されますよ。と仰っていたので、すぐに試してみます。
大の字になって、波の音をただ聞いているだけでも心地が良く飽きませんし、そこにいるだけで五感が震える様で
神聖で特別な場所だと感じました。奄美大島のこの時期は梅雨入りしていたのですが、今年は空梅雨だそうで、
3日間共に天気にも恵まれたのも有難かったなと思います。


今回の旅、人との「ご縁」にも恵まれたのが僕らにとって嬉しくもあり、逢いたい人にも逢うべき人にも逢う事が出来たのは
単なる偶然だったのかもしれませんが、もしすると巡り巡って必然であった様にも感じています。
奄美大島は「結の島」とも呼ばれているというのも後から知りました。
もしかするとそういう言い伝えが「人」と「人」とを結び付けてくれたのかもしれません。
少し前にFUJITOデザイナーの藤戸さんが遠ければ遠い場所に行く程、得られる物が大きいと仰られていたのを思い出しました。
岩手から見ると奄美大島は、とても遠い所のように感じるのですが、誰かに逢いに行くという理由さえつけてしまえば
距離や時間はぐっと縮まると思います。
素晴らしい景色や人の温かみを感じられる場所なので、僕等もまた足を運んで知らない事を吸収して
これからのrasikuに、何かしらのカタチで反映出来ればと思います。

奄美大島


今回の旅は1枚のTシャツがきっかけで、どうしても自分の目で見て確かめてみたいという気持ちでその場所へ向かいました。
場所は鹿児島県の離島の中の1つにある「奄美大島」
面積は東京都の23区と同じくらいあるのですが、人口は4万人強くらいの自然が手つかずに多く残された島です。
行くのは勿論初めてで、丁度2年前の7月にrasikuと隣の喫茶cartaさんと一緒に行ったイベントの際に、何か記念になるものを
思って、FUJITOの藤戸さんに別注をお願いして作製して貰ったのが″泥藍染をしたTシャツ″でした。
通常の藍染よりも深い色合いで、何とも表現し難い複雑な色目が特徴で夏になると気に入って着ている気に入りの1枚です。
このTシャツを作るにあたって染めをお願いをしたのが、奄美大島で染色の活動されている「金井工芸」さんでした。
何とも言えない味わいのある色目はどうして出来上がるのかを、ずっと頭の中で考えたりしていたのですが
いつか実際にその場所に訪れて、お話を聞いてみたいと思っていました。
今年に入って様々な場所でふいに出逢ったり、飛び込んでくる”奄美″という言葉。
これはもうすべて何かの報せではないかと思い、
念願が叶って、二年越しの想いを胸に今回奄美大島へと旅することになりました。
訪れたその場所は、自分が頭で想像していたよりもずっとずっとシンプルで、そんな仕事のスタイルに衝撃をうけました。
言葉にしてしまうと表現が凄くチープになってしまったり、過剰な演出の様になってしまったりするのですが
自然をそのままに循環させて、それに対して人が合わせて動くという表現がぴったり当てはまる土地だと感じました。
1つ1つ目に飛び込んでくる景色や匂い、職人さんの手や姿勢など、無理もせず無駄のない生き方が表れていて
自分達がお願いをして作っていただいたTシャツがこの場所で染まったのかと思うと感動しましたし、
Tシャツの良さも、有難みも改めて実感する事が出来ました。


今回お世話になりました金井工芸さんは奄美大島の伝統的織り物の「大島紬」の生産工程の一部を現在も担っている
小さな工房です。車で運転をしていると、国道沿いにも何か所かで泥染めなどを体験させてくれる工房が幾つかあって
奄美大島の産業の1つとして大切にされているということを認識する事が出来ました。
金井工芸の金井さんは、伝統は伝統で守らなければならない部分もあるのですが昔の事をそのままやり続けてしまうと、
時代が流れているのに対して、大島紬だけが化石のような立ち位置になってしまうと仰っていました。
私達が今住んでいる盛岡にも沢山の良い伝統工芸は残されていますが、時代とアンマッチさを感じる事が多くあります。
きっと同じような感覚を金井さんは持たれているのではないかなと思いました。
それが良いとか悪いとか白黒で判断するのではなく、どう伝えていくのか、どういう切り口で若い人達に理解を深めて
良き伝統を如何にして守っていくのかが大切な事だというのを再認識させられました。


金井さんは奄美大島出身で一度東京へ出て染めとは全く異なる仕事に就かれていて、実家に戻った当初も家業を継ぐつもりは
一切なかったと話します。いつか無くなる物ぐらいに思ってもいた。けれど、身近で行われていることがどういうものかは
知る必要はあると思っていて、いざ入ったその世界では、材料を山にとりいく。取りに行くってなんだろう・・。
そんなことから、徐々に染めの面白さにとりつかれてしまい、現在は様々な植物から色を抽出したり、
色んな物を染めてみたり、新しい試みや活動をしながら、伝統でもある大島紬とも向き合っているそうです。
お話をしていると説明をして下さる言葉が柔らかくて、けれどしっかりとした芯を感じる方だなというのが印象的でした。


今回は自分達で持ち込んた白いTシャツやコートやストールなどを「泥藍」で染めるというのが目的でした。
先ずは藍染から施していきます。琉球藍の染料が入った樽の中に商品をゆっくりと沈めていきます。
最初は緑っぽくなるのですが、空気に触れる事で染料が酸化して鮮やかなブルーへと変化をしてきます。
軽く絞って干して色を定着させていきます。その後、水ですすいでもう一度藍の入った樽の中へ沈めてより
色を濃くさせていきます。この作業を繰り返せば繰り返すほどに色が濃く入っていきます。
ふと考えると別注したTシャツの色がかなり濃い・・・何回くらいやったのだろうと考えてしまいました。
濃く染めるにはそれ相応の回数が必要で、1つ1つ染まり具合を見ながらやらなければならないので
骨の折れる作業工程で職人ならではの感覚と経験のいる仕事だと感じました。
自分のイメージに色に仕上がったので、次は泥染めを施していきます。


泥染めと聞いて、泥の中に入ってやるんだろうと思っていました。
実際に泥染め専用の泥のプールが工場の横にあるのですが、今回はそちらを使わない方法になりました。
泥染め自体は泥の中に含まれている鉄分が化学反応を起こして、徐々に黒に染まるというのが理由で奄美大島の泥には
鉄分が多く含まれているというのが、染めに適していているという事になります。
染まりが悪い時には、山から鉄分の沢山入っている木や葉を切りだして煮出して泥田の中に混ぜるとおっしゃっていました。
何かを買ってきたりする事はないとの事。奄美大島で自生している植物から全てを賄えると言っていたのが印象的でした。
泥田の中を見ていると何かが動く陰がみえました。気になって金井さんに聞くと「イモリ」だそうです。
生れて初めて「イモリ」を見ました。「イモリ」が生息するという事は泥田が汚れていない証拠という事。
それが分かるので自然の生き物も1つの指標になると。
奄美大島では当たり前の事かもしれませんが、僕にとっては見るもの1つ1つがとにかく新鮮。イモリはじめまして。

車輪梅(花が梅に似ているから、でもバラ科の植物)
車輪梅に含まれるタンニン酸色素が鉄分とが化学結合を何十回と繰り返す事で艶のある美しい黒に染まります。


僕等は室内に入って藍染をした洋服の上から泥染めを施す作業に入ります。
藍染された洋服は一度、色止めを施す為にお酢ときなこを混ぜ合わせた水の中に2時間くらいつけておきました。
タンパク質に反応をして色落ちがし難くなるとの事で、色止めと聞くとケミカルな薬品かなと想像していたのですが
まさか「お酢」と「きなこ」と身近にあるものでびっくりしました。
泥染めをする際に必要な車輪梅と言われる木。
この木自体は全国的にも生えている木なのですが、奄美大島では特に多く採れる木の1つで車輪梅を細かくチップにして
煮出して、煮出し終わったチップは乾かして煮る際に使う燃料として使用し、最後は灰になって、その灰は染めを行う時の
原材料として使うという循環で1つも無駄がなくサイクルが回っています。
染めを行う際に大量の水が必要なのですが、地下から湧き出している水を使っているというのも何だか頷けて感心しました。
全てが理に敵っていて、自然のサイクルが難しいものは手を出さないと言っていた金井さんの言葉が心に突き刺さりました。


真水と濃度の異なるプールが2つあり、それを混ぜ合わせながら使う事で染め上がりを調整していきます。
何とも言えない車輪梅の匂いが工場を包み込みます。
目で見て手で触れて匂いを感じる、身体の神経の至る所が刺激されていきます。


車輪梅のエキスに鉄分をプラスして化学反応をさせます。
そうする事で、赤茶からブルーとグレーを足したような色目に変化をさせます。
この状態になった所へ藍染をした洋服を入れて、少しずつ揉み込んで色を定着させていきます。
一度水洗いをして、色の変化を確認して更に濃く色を入れる場合は何度も同じ工程を繰り返しながらイメージする色目に
仕上げていきます。素材によってもマチマチですしその日の湿度や気温によっても安定しないとの事でしたので
熟練した職人の感覚が必要とされる作業だと感じました。
作業負担を減らす為に、オートメーション出来る機械を導入した事があったようなのですが煮出した際の湯気などで
トラブルが相次いで、それらを直すのも手作業で面倒だと気付いてからは殆どの作業が手作業になったそうです・・・(笑)


工場内には至る所に大島紬の作業途中の布が幾つも置かれていました。
熟練した職人さんの水を切る音と染めをる為に漬け込む音とがリズミカルに聞こえてきます。


染めあがった洋服は外にある大きな木の下、風が心地よく抜ける木陰に干しながら乾くのしばし待ちます。
実際に訪れてみて感じた事は、金井さん自身が何か特別な事をやっている感じが全くなく自然のサイクルの中の1つの
役割を担われていて、無理に大きな動きや負荷を加えて変えようとはせずに、目の前に広がる景色などから
インスピレーションを沸かして創意工夫をしながら行動をされている姿はとても素敵だと感じました。
こうして僕らのような物を伝える側の立場の人間がやれる事、感じて動く事はまだまだ沢山あるように思いましたし、
作り手と受け渡し手とお客様との3つの関係性が、其々に理解されて豊かになっていく事が結果として継続的な好循環に
なり得るのかなと僕自身は率直に思いました。
染め上がりの洋服は想像していた以上に格好良くなり、奄美の海でも洗って色を馴染ませてきました。
これから大切に一緒に時間を過ごそうと思っています。
旅はもうすこし続きます・・・また明日・・・

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rasikuがオープンしたのは2012年1月29日
勝手に良い服の日と語呂合わせをして、店内に洋服が殆ど揃わないままに迎えたはじまりの日。
その日のことは天気や温度から、お客様の顔まで、今でもはっきりと鮮明に覚えています。
丸5年という月日が流れましたが、自分の中の一つの目標として盛岡という土地にある洋服屋として
しっかり根付くというか、認知されるように取り組んでいくと決めて日々を積み重ねてきました。

自分が思い描いていたオープンから5年経った店の姿と、現実としてある今とは当たり前かもしれませんが
良い意味でのギャップがあって、もっと達成感とか1つの節目を迎えた喜びがあるのかなと思っていたのですが、
案外あっさりと冷静に通り抜けた感覚があって、嬉しいのには間違いないものの、大きな充実感を感じたり・・・
という事はそこまで無かったのが、いざ5年経ってみての発見でした。
まだまだ至らないところだらけでもありますし、やってみたい事や取り組んでいきたい事が沢山あり過ぎて、
小さな節目ではあると感じたものの、通過点に過ぎないんだなと実感をしている所でもあります。
どんな事にせよ、10年やって一人前と認められるので、言ってみれば5年という月日はようやく半人前になった
ぐらいなんだと思っています。

独立すると決めてから5年お店を続けてみて半人前なりに感じた事は、短い期間で決着をつけるような
勝負の世界や、誰かと優劣を比べるようなものではなかったという事。
良い刺激を与えてくれる仲間はいますが、余所を意識して誰かの顔色を窺ってやる様な事はないのだと、
実際にお店を運営する中で、僕自身の感覚としてはその意識が強く明確になった様に思います。
それ以上に、課した課題や高い壁を自分自身でどう乗り越えていけるのか・・・という事や、
変わることもあれば変わらないことも両方あるのが当たり前で、すべては自分次第。
己自身との葛藤を繰り返し、バランスを取りながら折り合いを付けながら、ちょっとずつでも前に進んでいけるか
どうかが″続ける″という事に繋がってくるのだと思います。
スタートしたからには半永久的に続くゴールテープのないマラソンを走り続けるイメージ。マラソンはどうも苦手ですが。笑
調子の良い時もあれば勿論悪い時もあって当然で、その大なり小なりの波を創意工夫を凝らし、
出来れば面白がりながら、洋服に対する情熱と熱意で乗り越えてやっていく以外に無いと感じています。
答えはとてもシンプルで、だからこその奥深さと難しさがあります。辛い時もありますが、それ以上の喜びや、
醍醐味を心と体でしっかりと感じる事が出来るから、今まで続けてこれたのだなと思います。

次は10年を目標にと言いたい所ですが、先を見据えて行動するのがどうも苦手なようで、
いつも風に身を任せて、思い立ったらすぐ行動したい派で、そこが良くも悪くもあるのですが。
盛岡の四季折々の美しい景色を見たり、美味しい空気の中で深呼吸して、そんな環境の中で毎日を
過ごしていたら、結果、10年経っていた・・・くらいのスタンスで続けていられるのが理想かもしれません。
その頃には頭にちょっと白髪も混じって、少しでも色気が出ていたら良いな・・・なんて想像をしています。
盛岡にはお客様から10年、15年、20年とずっと愛され続けているお店があったり、色んな分野で淡々と
自らの道を突き進む、諸先輩方が沢山いらっしゃるので、そういった方とも肩を並べられるかは分からないですが、
自分達もひとつのピースとして少しでも街に人に、刺激だったり、色を添えられるような存在になれたらと思います。
これからも自分達らしく、東北の小さな地方都市″盛岡″の街並みに似合うような、洋服の品揃えと提案をし続けて
いきたいと思いますし、多少のブレはあったとしてもしっかりとした″軸″を持って、rasikuというひとつお店が、
来て下さる方にとって気持ちがふわっと豊かになる空間であり、必要とする人がふと思い出して足を運びたくなる。
そんな場所になっていければと思います。
6年目のrasikuも、どうぞよろしくお願い致します。

2017.2.4  立春 

物と向き合う

今日の盛岡は清々しい秋晴れだ。
中津川に鮭が溯上して、樹齢100年以上の銀杏の木が少しずつ冬支度を始めていて
ゆっくりと移り変わる景色を見ながら毎日を過ごしています。
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僕自身、お店をやっていて最近感じた事や心の変化を久しぶりに書いてみようと思います。
ここ何年かでSNSの進化がめざましく、情報をよりスムーズに誰でも簡単に見たりする事が出来るようになりました。
お店は勿論ですが、スマートフォンを手にした1人1人が発信者になって、今まで購入した物、見た景色、食べた物などを
タイムリーに共有をして、物を買ったり食べたり見たりするという行動に変化をもたらしてきているように思います。
その恩恵として、美味しいご飯屋さんであったり、素敵なアイテムがずらりと並ぶお店や空間にインターネットをある程度
使いこなせるようになれば、誰でもその場所や空間に気軽に行ける様になりました。
ちょっと前までは食べログなどの口コミ情報が一番信頼出来るというか(笑)そんな時代に生きていた私としては
道具の進化によって、より的確に食べたい物や欲しい物がスムーズに失敗なく手に入る時代になってきたのだろうと
勝手に推測をしています。電子機器にうとい僕にとっては、使いこなすまでは当然いかず、半ば諦めてしまっていて
よっぽど、ここに行きたいという信念と心の余裕が無ければその場所に到底たどり着く事は出来ません。
画面から流れてくる情報は目には入ってくるものの、殆ど頭に入らずにただただ流れている・・・そんな状況です。
僕自身が何か不自由しているかと言えばそんな事はないですし、流れてくる情報に気持ちや考え方が左右されてしまって
困ってしまうという事も経験していません。それよりも一番に大切にしているのは、目の前で起きている事を肌で感じ
素直に表現する、何となくな″感覚″や″直感″を信じて生きている方が毎日が楽しくワクワクして、充実感があるなと
最近はより一層感じるようになりました。毎日を繰り返しやっていく事で、今までとは違った角度で物事が考えられたり
いつもと同じ景色や当たり前だった事が違って見えてきたりと新鮮な気持ちでいられると思っています。
全て自分で決断している事なので、後になって何か後悔したり人のせいにはしませんし、
自然の流れにある程度身を任せているという表現がしっくり当てはまるのかもしれません。
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若い頃は血眼になって1つの事項を深く掘り下げていた時期もありましたが、雑誌媒体やインターネットの情報をあれこれと
調べ尽くした所で知った気になってしまっていたり、心の満足はそれで満たされているのか・・・という単純な疑問。
お客様の方が商品に対して知識が豊富であったり、メーカーの内部事情まで詳しかったり・・・と
多くの情報をキャッチしない自分にとっては何だかびっくりしたり驚く事の連続で、教えて頂く事の
方がむしろ多かったりで、結局何の為の誰の為の″情報″なのかをよくよく考えさせられる事もあります。
それは善し悪しがあるので何とも言えないと思っていますが・・・
何かを信じたり決断するのは、どんな時代でも自分自身の判断でしかないんだなと思ってしまうのです。
そんな事を考えると、深く掘り下げた情報に左右されていたり、見知らぬ人の情報を鵜呑みにしたりするのではなく
今、目の前に起きている現実と向き合う事をしてみても良いのではないかと思う様になりました。
それがきっとリアルだと思いますし、感性や感覚も今よりずっと磨かれていくのではと僕自身は思うのです。
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昔話をしても仕方ないのですが、僕が買い物にどっぷりと浸かっていた10代後半から20代前半の頃は
自分のアンテナに引っ掛かるというよりは、有名な人物であったりトレンドのアンテナに引っ掛かったものが良く見える
というのが殆どでした。皆が同じブランドの同じ物を追いかけていて、今考えるとそれは不思議な光景でもありました。
その得体のしれない″何か″はきっと″情報″や人が勝手に付けた″価値″で操られていたのだと、冷静に考えれば
分かるはずなのですが、それ以上に″熱″があったので周りを見れずに、ただただ「物」に踊らされていました。
お店に欲しいものが無くても、何かしら「買う」という行為がしたいがために無理に買い物をしていました。
今考えるとそれがトレーニングになったのかどうかは分からないですが、目の前にあるものを見てイメージして想像したり
する事が当り前になっていて、欲しいと思える物を直線的に手に入れるよりも、ちょっと寄り道したり、
普段は選ばないような物でも手にしてみてると意外と・・・という事が多々あって、実は横道にそれるくらいが
丁度良いかもという感覚が芽生える様にもなりました。
今のご時世を考えると、物がこれだけ溢れているので欲しい物だけを買うというのが当り前の事かもしれませんが
だからと言って自分のイメージ通りの物を手にしたからといってお洒落になれたり素敵になれるという事とはイコールで
結びつかないから面白いものです。自分で体験しているので良く分かるのですが、物は手にしてみて、自分なりの解釈と
落としどころを見つけていく事が大切で、次第にそれが板についてきてオリジナリティに結びついていくのだと思うのです。
物を買う事は出来たとしても、着熟したり乗りこなしたりするまでには物と過ごす″時間の経過″が必要です。
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何も考えずに1つ1つの商品を見て、物と真摯に向き合っているお客様をみると何だか嬉しくなってしまいます。
情報や知識をいくら沢山積み上げたからと言って豊かになるという事には繋がらないと思いますし、
頭の中が空っぽくらいの方が、物を見た時の感動だったり袖を通した感覚を肌で感じて頂ける気がします。
こんな文章を書いたからと言って何かが大きく変わるという事はないですし、否定をしたいという事でもありません。
僕は純粋にデザイナーが作りだした物を、感覚的に選んでお店にこれからも商品を並べて接客をして提案をしていきたい
ですし、ある程度の知識や情報が必要だとしても、それを直接的な売り文句にはしていきたくないと思っています。
選択するのはお客様であって、それを着たり手にしたいと思えるか・思えないか・・・この2つしかないと思うのです。
その決断が楽しくて、手にした時の家路に着くまでの帰路が楽しくて、帰宅してからの試着が楽しくて・・・
そんな単純な楽しさをこれからもっと沢山提供していければと思っています。
僕らも今日は時間を遅らせてお店を開けさせて頂きましたが、朝から物と向き合ってきました。
初めて手にしようとする物は何だか緊張しますし、心の中で大きな決断も必要になってきますが
物を目の前にして感じたり、悩んでいたり、選択をしている時間こそが、手にした後により心に響いてくるのだろうと
感じています・・・さて、何処に飾ろうかな・・・

MEGANE ROCK

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突然の一通の手紙がrasikuに届きました。
その手紙にはデザイナーのモノ作りに対する熱意と人との「縁」を大切にする気持ちが綴られていました。
手紙が届いてから数日後、盛岡で直接お逢いする時間を作って頂き鯖江から盛岡に足を運んで下さった
″MEGANE ROCK″のデザイナー雨田さん。
年齢が一緒という事もあって、見てきたものや触れてきた事の共通点が多く色々とお話をさせて頂きました。
10年程前にある職人さんの眼鏡を見た時にピンとくるものがあり、これが全て人の手仕事で出来ているという事に
感銘を受けたそうで、弟子入りを懇願し10年前に地元の鹿児島を離れ福井県鯖江市に移住。
眼鏡作りの職人として一歩を踏み出し、眼鏡の生産に関わる全てのセクションで働いた経験を活かし3年前に自身のブランド
″MEGANE ROCK″を立ち上げました。職人になった雨田さんは鯖江市にある小さな工房でデザインから生産
営業に至るまで全てを一人でやられています。盛岡に着て頂いた際に商品を持ってきて頂いたのですが
その中の1つに僕自身が気になったデザインの眼鏡があり試着をししていたのですが、あっという間に電車の時間が迫り
「欲しい」と思ったものの結局決めきれずに、今度は僕が鯖江にある工房にお邪魔するという話をして
雨田さんとはその場を別れました。
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※屋根の上のビニールシートは雨漏り対策だそうです。(笑)
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後日、初めて足を運んだ北陸の地、福井県鯖江市。
名古屋から特急電車″しらさぎ″に揺られて2時間。目的地の鯖江駅に近づくにつれて何層にも深みを帯びる
緑の景色は見ていて飽きがこなかったですし、盛岡にも負けず劣らずの自然が豊かな土地だということと
福井県の人口の規模や街の大きさ等という部分においても、とても親しみを持てる場所でした。
目的の鯖江に到着すると大小様々な工場と工房が点在していて、国内で生産をされている眼鏡のおよそ95%を
この地でシェアしています。元々、眼鏡作りが盛んな土地は大阪だったようですが、2時間余りで行ける距離と勤勉な
人柄がモノ作りに反映して徐々に鯖江に工房が移ってくるようになり、現在では眼鏡=鯖江というまでに浸透しています。
僕自身は視力がすこぶる良くて今まで眼鏡を必要とする事は殆どなかったのですが、もっと年齢を重ねて顔に雰囲気が
滲み出るようになったら眼鏡が似合うのかな、そうなれたらかけてみたいな、と頭の片隅に思っていました。
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工房にお邪魔すると扇風機が一台でクーラーなどの設備は一切なく、この日の気温は32度。
この少しくらい不便な環境(雨漏りする屋根など)が自分にとっては良いんだと雨田さん。
というのも、気温や湿度によって微妙な力加減が必要とされる眼鏡作りは、手先の感覚と経験による
微調整を繰り返しながら完成させるそうです。夏場この環境ではより神経を集中をさせる事になるけれど
それが良いんです。その分、生産量はぐっと落ちるんですけど(笑)・・と話す姿がとても印象的でした。
見た事のない什器があちらこちらに並んでいて、メガネは左右のレンズがあるので同じ機械を2台ずつ必要で
様々な工程がある中でも、眼鏡作りで一番重要視する作業は研磨する事だと仰っていました。
″MEGANE ROCK″で使用しているフレームはセルロイドと言われる天然の樹脂を化学反応させた素材で、
特徴として強さがあるのでノーシン製法(耳のかける部分に金具を入れない)での作製が可能。
磨けば磨く程に艶が増して、美しい経年変化は工芸品の様な趣になる。
どこか眼鏡を客観的に捉えていてプロダクトとしての冷たさとハンドメイドならではの温かさと繊細さを併せ持っていて
僕自身も初めて見た時に″モノ″としての美しさに惹かれてしまいました。
僕らの様な洋服屋で提案する以上、ファッションという側面も持ち合わせていますが、それとは少し違った目線で
見る眼鏡というのも、とても面白いなと思いました。
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壁の所々に貼られているDMだったりインスピレーションが面白く、雨田ワールド全開と言った感じでしょうか(笑)
その中の1つに柳宗理の言葉で「本当のデザインは流行と戦うところにある」とはっきりと雨田さんの字で
書かれた眼鏡の箱が目に飛び込んできました。しかも二つ。笑
″MEGANE ROCK″の眼鏡を見た時の僕自身の第一印象が、媚びていないというか売り易さであったり
誰にでも似合うというような当たり障りのないデザインではなく、ただ自分の良いと思える物だけを純粋に
作っている気がしていました。眼鏡というアイテムに対して全くアンテナを張っていなかった僕の心にもすっと響いてきて
身に付けてみたいと思わせる何かがありました。。鯖江まで足を運んだのも作り手の雨田さんの人柄や眼鏡その物を
より知りたいという想いと、その土地の空気や雰囲気を自分自身の肌で感じたいというのが理由でした。
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その後、実際の作業工程を見せて頂きましたがセルロイドを使った眼鏡は磨きに始まり磨きに終わる・・・
というくらい研磨する工程がとにかく多くあり、その磨きの技術で仕上がりの善し悪しが決まると言われていました。
効率を求めればセルロイドを使用するよりもアセテートと言われる素材を使う方が、より簡単に効率良く製品が出来るそうですが
仕上がりの美しさ、掛け心地、経年の変化などはセルロイドでしか味わう事の出来ない良さがあるから手間を惜しまずに
更に磨きの技術向上させて、掛けた時もそうですが、外して眼鏡を地面に置いた時の存在感やモノとしての価値にも
拘り続けていきたいと仰っていました。
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現在は1か月で約70本の眼鏡を生産していて、それ以外にも新しいデザインにも取りかかっているそうです。
雨田さんの中ではあくまでも眼鏡職人であって、デザイナーと言われると少しニュアンスが異なり、直ぐに幾つもデザインが
思い浮かぶ訳ではないとのこと。作業をしていると急にデザイン案が降りてきて図面を引いて・・・
やり直しての繰り返しで、作る方の行程が遅れる事もしばしばあるそうです。
自分の出来る範囲で納得のいく物だけを世に送り出すという姿勢はとても共感出来ますし、じっくりゆっくりと
時間をかけて出来上がったものは時代の流れや流行とは無縁であるようにも感じました。
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鯖江には一泊し、その日の夜ご飯は工房から目と鼻の先にある地元の人しか来ないような焼肉屋さんに
連れて行って頂き、驚く程に美味しいホルモンを堪能しました。
翌日のお昼は福井県の名物である″おろし蕎麦″を食べて、旅の醍醐味を十分に満喫した1泊2日でした。
そして忘れてはいけない一番の目的であった″MEGANE ROCK″の丸眼鏡″KOALA”というモデルを直接購入し、
初めての北陸、そして鯖江。そして初めて触れた眼鏡の世界に思いを巡らせ6時間半かけて無事帰路につきました。
同世代の方が真摯にモノ作りをしている姿勢に刺激を受けましたし、表面的な言葉だけではなくその裏側にある
想いや背景なども一緒にお伝えできればと思っております。
そんな訳で、MEGANE ROCK 店頭に並んでいます。
少しずつですが僕も眼鏡・・・掛け慣れてきました。自分と眼鏡が徐々に近づいていく感じが、とても好みです。

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