旅の記録 九州(熊本→宮崎→福岡)③


九州の旅もあっという間に3日目に突入しました。
今日は福岡県八女市に工場を構える「下川織物」さんと「宮田織物」さんの2つの工場を見学しに行きます。
1軒目の下川織物さんは1948年に創業し現在3代目の社長に受け継がれて70年以上もの間「久留米絣」の
生地を生産し続けています。オリジナルの商品も展開しつつ、現在は国内に限らず海外にも積極的に久留米絣の
技術や伝統、素晴らしさを伝える活動を地道にし続けています。
下川織物さんの生地を使用したSOWBOWの服を、自分達も店頭で販売していることもあって、生地生産の現場を
実際に見るのは初めてのことだったので、非常に嬉しくもあり感動してしまいました。


久留米絣を説明するのはとても難しいのですが、パターンを作製してそれに合わせて色を出す部分と残す部分とを
決めてから糸を結んで染色をしていきます。解いて染色がされていない部分が柄になる箇所で、平織の機械で
織り上げる事によって様々な柄が生地に現れるようにな仕組みになっています。
奄美大島に行った際に見学した大島紬にも似た感覚があって、元々は着物を作製する際に作られていた背景があります。
染めた糸を干して、解いて、機会に1本1本通して織り上げると想像すると、とても緻密で手間暇の掛かる作業と言うことが
干されている糸を見るだけでも十分過ぎるくらいに伝わってきました。


工場の中に入ると「カシャン、カシャン」という古い織機の子気味の良い音が鳴り続けています。
古い織機を使う事でゆっくりとじっくりと織られる為に1本1本の糸に負荷が掛かり難く、低速で非効率的ではありますが
出来上がった生地に沢山の空気を含んでいるので、強くてふっくらとした生地に仕上がります。
様々な柄が織りあがるのを見ているだけでも楽しめますし、生地の生産現場をこうして目の当たりにすると
ここから更に人の手が幾つも加えられて洋服になりお店に並んでいるんだと思うと改めて凄い事だと感じました。
洋服を扱う以上は商業的な部分も大切ですし、売れなければ続けていくのが難しいのは分かっているつもりだったのですが
改めて深く掘り下げた現場を見る事によって、自分達の存在意義であったり価値観を見直す良いきっかけになりました。
3代目のお父さん(2代目)がシャトルの微調整をやっている姿は格好良かったなぁ。
年齢に関係なく健やかに働き続けられる事は、自分達も含めて見習うべき姿だと思ってしまいました。


下川織物さんは久留米絣という伝統工芸織物を代々作り続ける職人として、良いものを作る事だけに止まらず
出来る限りオープンマインドで情報を発信し、絣を通して海を越えた交流が生まれる物作りに名前をつけて
“Glocal(Global+local) txtile communication”をしたいと仰っていました。
それが結果として職人の減少に歯止めを掛け技術の継承になり、地場産業ならではの高品質で他にはない
生地を世界各国のアーティストや起業家の方に提供し続ける事に繋がると考えられていて、工場見学や
SNSなどの情報発信も積極的に取り組んでいて、お話ししていてとてもパワフルで前向きな考え方や姿勢は
小さなお店を続ける自分達にとっても、一つのビジネスモデルとして色んなことを考える時間となりました。
お仕事とはまた別の野望についてもお聞きしたり。ぜひその目標も叶いますように!!
ふと目に留まった下川織物3個条・・・こちらは2代目の言葉とのこと。許可を頂き写真に納めました。
生地のストックも圧巻で、好きな柄や色の良い生地が沢山ありました・・・ぼんやりとですがこの先
何か出来たら良いなと勝手に妄想を膨らませながら下川織物さんを後にしました。

続いて訪れたのは創業が1913年と一世紀を優にを超えた「宮田織物」さん。
会社の規模としては先ほどの「下川織物」さんより大きな織物屋さんで、半纏・作務衣・仁平などを中心に
全て自社工場で生地の作製から縫製まで出来るシステムで、オリジナルの製品を開発し卸・販売をしています。

丁度半纏の綿入れ作業中でした。
二人で息を合わせてひっくり返して均一に中綿を入れていく作業は、簡単そうに見えて人の手をかえさなければ
出来ない工程の1つ。職人技と言って良いほどに素早く綺麗に綿が入っていく光景と楽しそうにやっている姿は
見ていて何だか微笑ましかったです。


宮田織物さんは幅広の生地を織る事が出来る織機を所有しており、その中でも高速に織り上げられる織機と
ゆっくりと時間をかけて織り上げる織機を使い分けながら久留米絣に良く見られるような伝統的な柄物から
斬新且つ今の時代にマッチする生地まで柔軟に対応をしながらオリジナリティを追求しているように感じました。
ここでは営業の平野さんに織機1つ1つの特徴やアパレル業界の秘話まで幅広くお話をお伺いする事が出来ました。
自分の知らない事ばかりで、生地についてより詳しく知るきっかけになったのは言うまでもありません。
何となく知っている様で説明していた事などが、実際にこうして目の前で見れた事で今後の接客にも活かせる事が
沢山あって「百聞は一見に如かず」ではないですが、自分自身にとって素晴らしい体験になりました。
特色の違う織物工場を2カ所見たので、あまりの情報量の多さに頭の中がもうパンパンでした・・・(笑)
吉村さんからまだ見せたい所があるとの事で・・・少し休んでから次の場所へと移動をします。


車で15分くらい走らせて同じく八女市にある「うなぎの寝床」さんに向かいました。
九州の筑後地区のアンテナショップとして同市に2店舗を構える衣・食・住のセレクトショップ。
僕らのような個人の小さなお店よりも規模もスケールも大きいですし、だからこそ出来る事があると感じました。
接客をしているのを聞いていると外国人の観光客の方や福岡を中心とした九州の方が訪れていました。
元々は個人商店が幾つも点在した地域に、少しでも活気を戻そうとする動きや光景は産業構造においても大切ですし
大きな力と小さな力のどちらが欠けても街の面白さには繋がらないので、自分達も本当に小さな力だけになってしまうかも
しれませんが、その一旦を少しだけ担っている事を実感しました。


更にもう1つお見せしたい場所がありますと・・・吉村さんのガイドはみっちりと最後まで九州を堪能させてくれます。
同じ福岡県でも今度は北九州方面にある豊前市にお店を構える「1113」さん。
車に乗り込んでカーナビをセットするとなんとここから130キロ以上も離れた場所・・・高速道路をひたすらに北上し
更に東へ進路を変えて進んで2時間15分に到着するとの事。
土地勘が全くなかったので、もう少し近場にあると予想していたのですが・・・
以前に一度メーカーさんがいらした際に福岡に良いお店があるとは聞いていて、そこが1113さんだったのですが
もうこのチャンスを逃したら、なかなかもう行く機会はないと思っていたので15時過ぎに八女市を出発。
到着したのは17時15分過ぎくらいだったと思います。太陽も随分と傾き始めてきた頃にようやく到着。
福岡県豊前市(ぶぜんと読みます)は人口2万6千人の小さな市で、自宅の倉庫を改装して飲食のスペースと
洋服と雑貨を扱うセレクトショップがありました。
空間の使い方がとても上手で、天井が高く、自宅の畑で栽培している捕れたて野菜から洋服まで幅広いラインナップですが
1つ1つの什器の置き方やディスプレイまで独自の審美眼とセンスで居心地の良い空間でした。
其々に違う場所で、その土地に見合ったやり方でお店を運営されている方を見ると、様々な可能性が広がりますし
新しい生き方を考えたりするきっかけにもなります。また自分の中での新しい価値観に触れるお店に出逢えました。
お店を出る頃には辺りはもう真っ暗に。旅の最終目的地の福岡市内へ向かいます。


福岡と言えば屋台!!という事で、何度か訪れた事のある土地だったにも関わらず屋台での食事は行った事がなく
折角なので屋台で夜ご飯にしましょうと言われて訪れたのが天ぷらのお店「玄海」
8席で満員になるのですが、行った時には既に満席で外で待つこと20分。
席に座ると綺麗に下処理をされたお肉や海老、野菜がカウンターに並べられています。
お任せ(8品)を頼んで僕らはビールで乾杯。ご夫婦二人で切り盛りされていて目の前で天ぷらを1つ1つ丁寧に揚げて
お皿に入れてくれます。どれもこれも絶品。言葉を失いました・・・白いご飯を追加して3人で黙々と食べ続けました。
あまりの美味しさにお腹もいっぱいだったのですが追加で海老とシイタケを頼んで心も身体も大満足。
最後の最後まで、また行こうと思えるお店に出逢う事が出来ました。

こうして3泊4日の九州の旅は僕らにとってかけがえのない出逢いと時間になりました。
事前に下調べをして3日間ぎっちりとガイドをして下さった吉村さんには感謝の気持ちしかありません。
そうでもしなければ、今回のように素晴らしいと思えるお店や人に出逢う事は出来ませんでしたし
知らない土地に行って肌で感じる文化や風土・方言などに触れることは五感をフルに刺激してくれます。
良い意味で毎日当たり前に過ぎ去っていく現実を少しだけ忘れる時間にもなります。
そういった時間は、また自分の暮らす土地について思いを寄せたり、考えるきっかけを与えてくれますし
自分の居場所や、足を運んで下さる方により心地良い場を作るための創造力を広げてくれます。
北東北に住んでいると馴染みがそう多くはない九州。距離では遠いと思ってしまうかもしれませんが
運よく花巻空港から福岡空港まで直行便が出ているので想像よりもアクセスがし易く、着いてしまえば人も気候も
暖かい土地ですので、興味を持ってくださる方が一人でも居て足を運ぶきっかけになってくれたら良いなと思っています。
実際に僕らが行く前の週に一人で熊本を満喫した強者も居ますしね・・・・(笑)
洋服という1つのツールを通して、人と人とが行き来しあったり共感出来たり、そんなお店になっていけたら良いなと
改めて思う旅になりました。僕らの言葉で感じたことやお勧めの場所などをお伝えする事は出来ますので
そんな事も小さなお店があり続ける意味ではないかなと思っています。これからも僕らの旅は続いていきます。

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